DQ ダイの大冒険 29巻

『ドラゴンクエスト ダイの大冒険』 原作:三条陸 漫画:稲田浩司 監修:堀井雄二
ダイジェスト 第29巻 『超兵器招来!!!の巻』

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★揺れる大魔宮(バーンパレス)…!!!の巻
魔物の群れを葬る戦士ヒュンケルのグランドクルスの輝き、そして開け放たれた大魔宮(バーンパレス)中枢への門。 この事態に大魔王バーンは、地上でロン・ベルクと戦うミストバーンに帰還を命じた。
勇者ダイとはまた異質の強さを持つ勇者アバンの復活を警戒するバーンに、ミストバーンはもう一人の幹部キルバーンの動向を尋ねる。 奴の仕事は誰かの生命を奪う…それだけだと、ワイングラスを片手にバーン答える。 そして切れる男アバンが一つだけ犯したミスは半端に奴を傷つけた事……
バーンの言葉通り、気にいりの仮面を壊したアバン“だけ”に復讐するべく、キルバーンは仮面の並んだキャビネットから一つの仮面を選び出していた。

ミストバーンはダイたちを止める命を受けたものの対峙するロン・ベルクは強敵。さらにザボエラ自慢の怪物軍団も北の勇者ノヴァやクロコダイル、各地から集まった戦士たちの手でほとんどが倒されていた。 チウもボコボコになりながらもピクシーA・Bを降参させていた。一致協力する事を知らない魔界の精鋭怪物より 「…ここにいる人間たちのほうが少々 使命感が上だったようだ…!!」
勝利宣言するロン・ベルクの背後では人々と獣王遊撃隊の手で守られた破邪の魔法陣が損なわれる事無く輝いていた。

天空に浮かぶ大魔宮、その白く壮麗な廊下を駆けるダイたちは、一本道過ぎるというアバンの言葉にハッとする。分かれ道が無いのは挟み撃ちの為。後続は外でヒュンケルが絶つとして課題は行く手を遮る敵……。
ホールに湧く噴水の背後に三階分はある大階段を見上げた時、魔道士ポップの荒い息とタンマの声が。特殊体質(?)のダイはともかく、先の戦いで魔法力も体力も底をついたポップはヘトヘト。 一発こづかれただけで死にそうと元僧侶戦士の武闘家マァムのフトモモにしがみ付き回復呪文を頼むが、じゃあ、こっちの方で楽にしてあげると拳を固めるマァム。 髪を掴まれ本当に一発こづかれそうなポップを救ったのはアバンの意外な一言だった「よしっ 決定ッ!! あそこでひと休みしていきましょう」

大魔宮の奥では腕組みするバーンの背後に巨大な影が射していた
「そろそろ大魔宮最強の守護神である自分にお声がけの時…かと…!」


★正義の快進撃!!の巻
「いやぁ〜っ 良かった良かった こんな事もあろうかとピクニックセットをもってきておいて…!」
花柄シートに食器やバスケットを嬉々として並べるアバン。 ぽか〜んと座り込むダイやマァムに、レオナ姫は…どんな事態を予想してたのかしら……と囁く。 ドン底にへたばったポップは一人闘うヒュンケルを思い立とうとするも、アバンの放った羽を頭に受けて倒れてしまった。慌てる仲間の前で白い光に包まれ起き上がったポップの魔法力は回復していた。
それは宝玉部分に魔法力を蓄積できる聖石を使ったシルバーフェザー。輝石を使い魔法増強に使うゴールドフェザーとは別物。その両方の力を併せ持つのが“アバンのしるし”輝聖石だとアバンが説明する。 並みの魔法使い2〜3人分の魔法力を注がれても満タンにならないポップのLvアップぶりに感心しつつ、念のためもう一本打っときましょうと迫るアバンから、注射を嫌がる子供のように後じさるポップ。だが、万全の体制を整えるのも重要な使命 「少々 心や体が痛んでもやっておかなければ…それこそ 今 身体をはっている人に申し訳ないの…では?」アバンの言葉にポップは、はっとする。
アバンは、魔法力と体力回復の任を数本の羽と共にマアムに渡すと、トラップ解除と城の構造調査をしてくると言い出す。
助手にレオナ姫を連れ去りつつ、もどるまで動かずお弁当でも堪能しててくれと笑うアバン。その自慢の弁当は似顔絵にレイアウトされタコウィンナーなど飾り切りもほほえましい豪華版。
変わんないなぁとなごむダイとポップだが、マァムは無理して明るく振舞っているのではと心配する。この先の厳しい戦いに思いを馳せメガンテするアバンの姿を思い出ししんみりする一同の気分を盛り上げたのは、腕をまくり“頭に刺されんのだけは勘弁”と前向きなポップだった。

その頃、何を手伝えばと戸惑うレオナに、アバンはこれを受け取って欲しいとフェザーを一束渡した。「まっ…まさか…!!?」その量と透明なアバンの笑みにレオナの顔色が変わった。

地上では追い詰められたザボエラが大魔宮でバーンを守るからこの場を頼むとミストバーンに泣きつき逃げようと画策していた。だがミストバーンはそれを苦しい言い訳と笑う。 こんな連中も倒せんおまえがダイたちのいる大魔宮で何が出来る、人生のツケというやつは最も苦しい時に必ず回ってくるものらしい、今まで色々な奴を利用してきたおまえだが……冷や汗に鼻水まで垂らしたザボエラに、すげなく背を向けるミストバーン 「…たまには自分の手足を動かせ…!」


★究極の結論…!!?の巻
ここにいる人間どもと光の魔方陣ぐらい片付けて見せなければ処刑と冷たく言い放つミストバーンを、ザボエラはあえて呼び捨てにし共に戦ってきた仲間を見捨てるのかと訴える。 正義の使徒とどもの金看板のような言葉を出してきたかとミストバーンは振り向いた。そして、つきあいの長い“仲間”ならば私がどう答えるか承知しているはず…。“大魔王様のお言葉は全てに優先する” がっくりと膝をつくザボエラ。今まで数々の戦士を踏み台にしてきた男が逆に踏みにじられ捨てられた姿をクロコダインは無言で見つめた。
ロン・ベルクに逃げるつもりかと問われミストバーンは答える。そうとってもらっても結構、そして全力で攻撃してきたら…これほど勝負は長引かなかった「……もっともそれは 私も同じ事だがな…」 沈黙したロン・ベルクと人々に「強靭な肉体と精神を持った者は敵味方を問わず尊敬する」と言い残し、ミストバーンの姿は消えた。
残されたザボエラは、この人数相手に勝てると思うほどバカではあるまいと降伏を勧めるクロコダインに、哄笑で応える。バカの代表にバカと呼ばれるとは……常に切り札は用意している手を汚さずともこの場にいる数百匹のモンスターがワシを守ってくれると豪語する。 モンスターどもは虫の息だと言い返したバダックは信じられないものを見た。サボエラから放たれた呪文が次々とモンスターにトドメを刺してゆく(ピクシーA・Bはチウが庇った)。 最強兵器の部品(パーツ)は死体でなくてはならんと笑うザボエラ。死体から玉が生じザボエラへ凄い勢いで引き寄せられてゆく
「超魔!!合成〜ッ!!!!」死体は融合し毛と筋肉に覆われた怪物に変じた。思い通りに動かせるが自分の肉体は傷つかず、敵を一方的にいたぶれる究極かつ理想のパワー「…超魔生物第2号… …いや超魔ゾンビと呼んだ方がよかろう…!!」
最低の発想だと嫌悪を覚えるノヴァ。そして図体勝負のこけおどしが通じるかとロン・ベルクが跳び、甲割りを仕掛ける。だが刃は食い込んだが剣は折れ、ビクともしない超魔ゾンビ。愕然と剣を見つめるロン・ベルクに結論は出たとザボエラは宣言する。 「これこそまさに 究極の超魔じゃよ…!!」
★ザボエラ最強変身!!!の巻
超魔ゾンビのみぞおちの球の内からザボエラが得意げに説明する。死肉の凝集体はゴムのように衝撃を吸収し体内の毒素が切っ先を取り込む、いかなる武器でも切断不能、しかもワシには苦痛が伝わらない。死体が痛みを感じるわけがないんじゃから… フローラ女王は最初から自分の配下に手を加えていた悪魔ぶりに色を失い、 ピクシーABは死んでいたときの事を思い青ざめる。一人余裕のチウが「さあっ!!老師…じゃなくてビーストくんっ!!必殺の閃華裂光拳をくらわしてやりたま〜えっ!!」と隊員NO11番に指令を下すも、過剰回復呪文(マホイミ)はゾンビには効かないと冷や汗垂らすビーストくん。 「…覚えておけネズミ 前回の課題をすべてクリアしてはじめて“改良”という…!」唯一の弱点はワシの魔法力を断つ事じゃが身体の奥深くに隠れてしまえば……「……弱点は…消えたっ!!!」 みぞおちの球からザボエラの姿が引っ込み超魔ゾンビの目が不気味に輝く。
「唸れっ!!! 轟火よっ!!!」クロコダインの指示で一斉に呪文が放たれるも、炎熱の中超魔ゾンビは無傷。 「……フン あの古狸め叩かれてやっと手の内を 見せおったわ」その様子を上空で見ていたミストバーンは優美な鳥にも似た大魔宮へ帰投した。
全身を刃に貫かれながらも平然と動き、並み居る戦士を倒しいてゆく超魔ゾンビにはクロコダインのグレイトアックスも歯が立たない。一人の戦士が握り潰されようとした瞬間、ロン・ベルクの投擲した槍が二の腕を貫きノヴァの渾身の刃が食い込む。しかし腕は断ち切られず超魔ゾンビの腕の一振りで、 ノヴァは払い飛ばされた。ロン・ベルクでも斬れぬものが人間如きに斬れるか、ムダよっ。 そう言われて激昂するノヴァを抑えたロン・ベルクは、残念だがこの場の誰にもどうすることも出来まいと超魔ゾンビを睨む。ロン・ベルク以上の力と速度とダイの剣のような究極の武器をもってすれば…わからんが…
その間にも魔法円を消そうと迫る超魔ゾンビ。フローラ女王と破邪の魔法陣を守ろうと人々が壁を作り、クロコダインが超魔ゾンビの足にしがみ付く。武器があてにならんとなれば格闘で……「この身をはって倒すのみっ!!!」
「……小さい…!非力だ!しみったれてるのォクロコダイン。きっと 以前のワシはおまえの目から見ると こんな風に見えたんじゃろう…」クロコダインを見下ろし頭を押さえつけるザボエラ(超魔ゾンビ)「いい気分じゃぞいっ!!!巨人の気分というのはなァッ!!!」
いたぶられるクロコダインを見つめノヴァは拳を握り締める。無いものねだりしている場合じゃない…ダイたちはもっと厳しい戦いをしている、魔法円を守り抜くのはぼくたちの使命…ぼくたちの力だけでダイと同じぐらいの力を生み出さなくちゃいけない時なんだっ!!! 論理的に不可能、この場にヤツを倒せる武器はないとのロン・ベルクの言葉に、はっとするノヴァ。ヤツを倒せる武器「……ある!!」何ッ!!?「……ボクの…この生命だっ!!」
★もうひとりの勇者の巻
命をかけてもムダ死にするだけと言うロン・ベルクに命そのものが強力な武器になると言うノヴァは、フローラを守る父から剣を借りへし折ると刃を直接握り締めた。 「……行くぞっ!!! このボクの生命力の…すべてを ふりしぼって…!!!」血を吹く手から闘気をはなち刃と成す“命の剣”「こいつで…ヤツの身体を斬る!!」 中のザボエラが少しでも露出すれば倒して超魔ゾンビを停止させる事も可能なはず…。 頬がこけ消耗してゆくノヴァの前にロン・ベルクは立ち塞がり100%失敗すると告げ中止させようとする。5分とかからず生命力が尽きると。 「…いいんです それでも!!」一撃で倒せるなんて思ってない、しかし絶対に折れない命の剣で叩きまくってわずかな傷の一つでも残せればいい。ムダ死にじゃない、ボクが死んでもみんなに何かを残せるはず、まがりなりにもかつて“勇者”を名乗った事のある…このボクの務めなんです!!

それは少し前の事。森での手合わせでダイとの力の差を思い知り、本物の勇者に嫉妬して迷惑かけたと謝るノヴァ。その時、 力の差なんて問題じゃない、一番強い奴一人が本物の勇者だなんて考え方おかしいとダイは言ったのだ。じゃあ本当の勇者ってどんな人物かと問われて考え込み逆立ちまでしたダイの結論は「う〜ん よくわかんないけど……」、 ただ 力とか勇気とかが強い奴の事じゃない事は確かだよ……ノヴァだってリンガイアじゃあ“北の勇者”ってみんなが呼んでくれくれてたんだろ? …じゃあそれでいいじゃん  それで救われている人がいるなら、おれも勇者でノヴァも勇者「どっちも勇者なんだよ!」 ダイの手のぬくもりと笑顔に、自信と気迫が沸いてくるのを感じたノヴァは本物の勇者の結論を得た。

「…ボクは…あの時はじめて知った!! 真の勇者とは自らよりもむしろ…!! みんなに勇気を沸きおこさせてくれる者なんだ と……!!!」 命尽きて倒れても、残したわずかな傷跡から攻めていける勇気を残して上げられれば「…ダイほどでなくても…ボクも勇者の代わりができる…!!!」 息子の成長に涙ぐむ父と叫ぶフローラ女王を背後にノヴァは跳ぶ。「…女王さま!!後はたのみますっ!!そして号令をっ!!“全員あの攻撃へ続け!!”と」
だが、生命の剣が貫いたのはロン・ベルクの左肩。もういい「力を抜くんだ…ノヴァ…!」身を挺したロン・ベルクの言葉にようやく刃を放すノヴァ。 今の今までおまえを見そこなっていた……感心すると同時にどうあってもムダ死にさせたくなくなった。赤と青の血に染まった刃を引き抜きロンベルクは微笑む 「たとえ流れる血の色は違っても…オレたちの生命(いのち)の価値は同じだっ…!!!」同じ命を削るなら少なくともおまえの10倍は生きたオレの方が良かろう、おまえと同じだけの決意があれば、最初からあの程度の敵に手こずる事はなかったのだ…!!
ロン・ベルクは胸元から中心核に闇を抱く球を取り出し宙へと投げ上げた。「来いッ!!! 我が生涯をかけた…究極の兵器!!!」球は割れると同時に空間に穴を穿ち二角を持つ鬼面のような岩を召喚した。 「……みんなどけっ… ………危ないぞ…!!」


★超兵器招来!!!の巻
人の背丈ほどもある不気味な岩が地上へと落ちた。 そんな石コロ、叩き壊してくれる、超魔ゾンビが襲い掛かる。だが拳の小指側から伸ばした刃の方が砕け散った。そして岩にもひびが入り弾ける様に壊れる。 「……悪いな 助かったぜ こじ開ける手間がはぶけた…!!!」現れたのは二振りの長剣。名付けて星皇剣。100年以上かけて作り続けてきた「世界で唯一のオレ専用の武器なのだ!!!」居合いにも似た剣二本を右背後に配した構えから放たれる気迫はロン・ベルクを一際大きく見せる。
一瞬怯むも少々深くめり込むだけと気を取り直したザボエラ(超魔ゾンビ)が飛び掛る。だが砕いたのは岩と大地のみ。避けるだけで反撃してこないロン・ベルクに自信が無いんじゃろう、怖いんじゃろう、この腰抜けめがと笑うザボエラ(超魔ゾンビ)だが、さらに気迫を増す魔界の剣士を前についに沈黙した。 「…たしかに怖い 恐ろしいよ ただし威力の無さがではない そのあまりの破壊力が だ…!!」星皇剣が光を帯びる 「…オレがこの剣を振るうのは たった一度だけ………左右一発ずつのみだ…!それを放ったら…オレ自身もただでは済まんっ…!!! だからこそ!!この一撃で確実に貴様の身体を十字に裂く…!!! それが このロン・ベルク流剣術最強の奥義…!!!」
星皇十字剣!!!!

閃光が晴れれば突っ立っている超魔ゾンビの遙か後方で膝をつくロン・ベルクの姿。推測どおりなんともないとサボエラが安心しかけた瞬間、 超魔ゾンビの肉体に縦横の傷が走りザボエラの周囲にも血が溢れた。 四つに断ち割った超魔ゾンビをロン・ベルクが一瞥する
「…あの世でせいぜい自慢しろ おれが くれてやった…その十字の餞別を な…!」


★未完の究極剣の巻
勝利に沸く人々の歓声の中で、ロン・ベルクの顔が血色を失う。星皇剣が粉々に砕け散ると同時に腕からも“ピシィイッ”と音が響きロン・ベルクは気絶した。 駆け寄った人々に囲まれノヴァに抱き起こされたロン・ベルクは変色し腫れ上がった両の手を振るわせた。
…また…やっちまったな…こうなる事はわかっていた… 魔界に生まれ10年もたたないうちに最強の剣技を極めたものの強力すぎて200年前の戦いでもオレの両腕は剣とともに壊れた…武器の弱さを憎み、全力で戦えないいらだちから、武器作りの道へ入り全力で戦える武器を生み出そうとしたが……星皇剣は未完成。 こんな事があるなら完成させておきゃ良かったよ、ダイに剣を作って以来、連中の世話に没頭しちまってた。そう自嘲的に語るロン・ベルク。 ダイの剣に入れこめたのも、武器が自分についてこないもどかしさってやつに…共感したんだろうな……
全力で戦えば自らの破滅を招くから力をセーブしてたのかと尋ね、同意を得たノヴァはうつむきミストバーンの言葉を思い出す(おまえは大した男だ もし 全力で攻撃してきたら…これほど勝負は長引かなかっただろう) 自滅すると分っていてボクたちのために…涙を溢れさせるノヴァに、おまえみたいな若いのがムダ死にするよりマシ…「それだけさ」と目を閉じたロン・ベルクはダイやおまえらにもう武器を作ってやれない事を心残りと告げた。 魔族の高い再生能力でも以前70年かかったダメージ……おまえたちの生きている間には……もう………  ノヴァはロン・ベルクの動かぬ手に自らの手を重ねた。ボクのこの手を使って下さい、傷が癒えるその日まで…生命を救われたお礼に星皇剣をボクがきっと完成させてみせます 「…あなたは…強いだけじゃない…!!尊敬に値する人です! できるならこれからも多くを学びたいっ…!!!」
真剣なノヴァの眼差しから目を先にそらしたロン・ベルクは軽く笑う、じゃあ早速たのもうか…懐の酒瓶をあけてくれんか? 心から師と仰げる人とこれからの征く道を見つけた息子の姿を感慨深く見つめる父の前で、ノヴァは酒瓶の止め金に手こずっていた。 「おまえにはまず 酒瓶の栓の開け方を教えなきゃならんようだな…!」溜息交じりのロン・ベルクの言葉に人々が笑い、ノヴァは赤面した。

人々の笑い声の背後で超魔ゾンビの残骸が白煙を上げ崩壊してゆく。そして岩陰には立つ力も失ったザボエラが這いずっていた。 突然陰る日に顔を上げたサボエラは、仁王立ちしているクロコダインに驚愕した。ザボエラは動揺を隠しよく気づいたとクロコダインを褒める。 「おまえのしぶとさは十二分に承知だ」動じないクロコダインは、一人で追ってくるとはまだまだ甘い、まだ策を残しているやもと言葉で揺さぶるザボエラに「……それは無い!」 おまえの性格なら、やられたらひとまず遠くへ逃げるはず、それが追ってつかまるあたりで這っているのはアイテムも尽き、ロン・ベルクどのの一撃で全魔力を失い脱出が精一杯だった為と推論を述べる。 「……今度こそ万策尽きたっ!!!」 図星を刺され、冷や汗と鼻水にまみれつつも(このワニ助がぁ妙な知恵をつけてきおってェェェ…ワシがこんなデクの棒と知恵比べして負けるはずがないんじゃ) その自負からクロコダインをカモと考えピンチをチャンスにする策を練るサボエラに、グレイトアックスを握り締めたクロコダインが迫る。 「………サボエラ 最期の時だ…!!!」


★最後の対峙の巻
クロコダイン…おまえの言うとおりだと素直に認めたザボエラは覚悟を決めたように半生を振り返ってみせる。 他の六大団長に比べ非力だったゆえに策に生きるしかなかった、切り札の超魔ゾンビを破られ人にすがらずには生きていけないと痛感したと語るザボエラは、土下座しもう魔王軍には協力しないと誓い命乞いをする。 魔王軍からも見捨てられ人間達からも受け入れられないワシはおまえにしかすがれんっ!! 沈黙したままのクロコダインがグレイトアックスをわずかに下ろす。同情を得たと確信したザボエラは土下座したまま体内の毒素を調合しクロコダインの意識を奪い意のままにする毒を爪先ににじませた。 かすっただけでもこっちの勝ち。 グレイトアックスの刃を地に下ろし手を差し伸べるクロコダインを内心底なしの愚か者、ウドの大木…いやワシの人生の踏み台を作るための材木とせせら笑い、毒まみれの両手を伸ばすザボエラ。
だが、クロコダインはすっと手をひっこめ長大な戦斧の柄をザボエラの両腕に落とした。腕が折れる音と悲鳴が響く。 「きッ…貴様ァッ…!!ワ…ワシにだまされたフリをっ…!!!」苦痛と怒りで思わず本音を洩らしたザボエラの動きをグレイトアックスに足を乗せて封じたクロコダインは右手に闘気を溜めてゆく
「……ザボエラよ 頭の悪いオレだがだまされ続けたおかげで 一つ物を知った…それは……! この世には 本当に煮ても焼いても喰えぬヤツがいる!…という事だ!!」

ザボエラを探しに来たバダックは、トドメを刺した後じっと立ち尽くすクロコダインを見つけた。“憎っくき妖怪シジイ”を倒しながら表情の優れないクロコダインを案じて見上げれば「……じいさん」 ザボエラも、かつて六大団長がそろった時には絶大な魔力で一目置かれた存在だった。それが出世欲に目がくらみ他人の力ばかり利用しているうちにダニの様なヤツになり果てた、 「恐ろしいものだ…欲とは…オレとて 一番手でダイたちと戦っていなかったらどう ゆがんでいたかわからん こいつは正真正銘のクズだったが…それだけは哀れだ……」 その肉までが毒素で溶けゆくザボエラをクロコダインとともに見つめバダックは瞑目した。そして、おまえさんはいいやつじゃとクロコダインの逞しい腕を叩く。こいつとおまえさんとは違う
「ワシの誇るべき友人獣王クロコダインは たとえ敵のままであったとしても己を高める事に 生命を賭ける 尊敬すべき敵であつたろうと…ワシは思うよ…!」 「……じいさん…!……ありがとう…!!」バダックとクロコダインは人々の元へと帰って行った。

上空の大魔宮正門前でヒュンケルの戦いは続いていた。周囲に倒れ伏す無数の怪物(モンスター)。もはや立っている方が少ない仲間を鼓舞し一斉攻撃を狙うアンクルホーンに水を差す声が「……やめとけよ ムダな事たぁ…!」そして激昂し振り返った顔面にめり込むパンチ。 「……そいつを倒すのはこのオレだっ!!てめえら如きが何百何千集まったところで かなうもんかよっ…!!! …オレの獲物だっ!!だれにも渡さねぇっ!!!」
そこに立っていたのは頭部のヒビも痛々しい……ヒム!!


★地獄からの生還者の巻
「…ヒ…ヒム…!本当におまえは兵士(ポーン)ヒムなのかっ!!?」ハトが豆鉄砲くらったみてェな顔と言われつつ、禁呪でオリハルコンの駒から生み出されたハドラーの魔力が途絶えた今もヒムが生きていることを信じられないヒュンケル。その疑問にはヒム自身も答えられない。 胸を打ち抜かれ大魔宮から落ちくたばったはずのヒム。意識も暗い淵へと落ち死の感覚を肌で味わっていたその時、闇の中から心に響いてきたのは…「それは仲間たちの…そしてハドラー様の最後の戦いの雄叫びだったッ…!!!」死を…全滅を知った瞬間心の底から思ったのさ“このまま死にたくねえッ!!!” 生きのびてハドラー様と仲間たちの意地を見せてやらなけりゃならねぇ、せめて一矢でも報いてやらなきゃあ「死んでもっ…!!死にきれねっ…!!!!」ってな……気づいたら胸の傷が治っていたと不敵にヒムは笑う。 ヒムとハドラーたちの執念が起した奇跡により魔力で操られる人形ではなくなった兵士の駒、ま…まさか…ヤツはっ!!?
そのヒムを取り囲むモンスターたちは負け犬ハドラーの手下風情、死にぞこないの落ち武者と嘲笑う。先に片付けてくれる、くたばれっクズ鉄とアンクルホーンの拳がヒムのこめかみに打ち込まれた。 バカどもが…邪魔さえしなけりゃ生かしといてやったのによ…動じないヒムの頭部から光が洩れ銀色の髪が豊かに広がった。
「…オレの邪魔をした事もだが それ以上にっ!!!てめえらみたいなクズ野郎が 偉そうにハドラー様を侮辱しやがった事がっ!!最ッ高に許せねえッ!!!!」その気迫と容姿はまさにハドラーの生まれ変わり。 放たれた無数のパンチが、周囲のモンスター全てを大魔宮の外へと殴り飛ばす。 自らの髪に気づき、握り締め「…ヒムおまえは一番…今のオレに似ているな…」というハドラーの言葉を思い出すヒム。
その様子とモンスターを蹴散らした闘気=生命エネルギーからヒュンケルは確信する(ハドラーの生命が…ヒムに宿ったとしか思えないっ…!!!)。 生命体になったヒムは、もはや“空”の技では倒せない、ダイの闘気剣に匹敵する攻撃を持つ強敵。その脅威をひしひしと感じるヒュンケルに、消耗してる所悪いが手加減はしないと迫るヒム。 おまえさんはどうしても超えなきゃならねぇ壁、ハドラー様が勇者(ダイ)打倒に全てを架けように、オレがこの世に残した最大の未練「そいつがおまえだッ ヒュンケル!!!」 ヒムが拳を固めた「受けてみろッ!!! オレのっ…オレたち全員のっ…!!! 誇りと怒りをこめた この拳を──ッ!!!!」 ドガアッ
★銀髪鬼ヒム!!!の巻
大魔宮深部では食事と魔法力回復を終えたポップがダイに回復呪文をかけていた。“ポップの回復呪文”は違和感あると言い合う二人に、 今まで回復を担当していたマァムは優しい笑みを向ける。…凄いわポップ…なんだか どんどん出番が なくなっちゃう感じ……!!
「いつでもかかってきやがれ 魔王軍っ!!!」完全回復したポップの叫びが宮殿内にこだまする。不気味なまでの静かさにポップは不安を口にする。 こんなふうに悪の本城で敵の出現率が減るのはあまりいい事じゃねぇんだよな、それって…
「……そうだ! おまえの知る通り…!!」足音高く現れたのはミストバーン。絶対的に信頼のおける強者(つわもの)が守りについている証、ザコはもはや不用。 身構えるダイたちにミストバーンは、ここは大魔宮中心部“白い宮庭(ホワイトガーデン)”、バーン様の間へ繋がる中央の“天魔の塔”へと繋がる階段がある大魔宮で最も美しい場所の一つだと説明する。 観光案内かよっ!!! 言い返すポップにミストバーンは笑う、自分たちの死に場所の名前ぐらい 知りたかろうと思ってな…!!

地上では魔法円を守りきったみんなにフローラ女王がねぎらいの言葉をかけていた。光の魔法円があれば大魔宮に救援を送ることも傷ついたパーティを帰還させる事も可能。 空を飛べる者ならば誰でも大魔宮へ行ける。だが先の戦いで全員ボロボロとても勇者どのの助っ人なんてと俯くアキームの耳に元気なチウの声が響く。…いた…一人だけまだ 元気な奴が…
相手は大魔王バーン、ケガ人や生半可な者が応援に行っても犠牲者が増えるだけ、ぼくがメンバーを選ぶと演説するチウは (…オメーの実力が一番生半可じゃねぇかよ… …たしかに…!)そんなゴメス達の失笑も気づかず、問われるまでもないと進み出たクロコダインを一人目に任じた。 行きたいのはやまやまだが……と謝るノヴァには優しくロン・ベルクの介護を頼み……回復のできそうな人と見回したとき『私!私!!私!!!私!!!!』賢者エイミから発する強烈な気がっ。 何とか振りきってビーストくんに決定するチウ。 おどおどするピクシーABには女王さまたちと帰りを待てと指示し、生きて帰れたら遊撃隊バッチを作ってやるという言葉で二匹を感涙させるチウ。それを見たクロコダインは、実力はまだまだでも器のデカさは相当なもの、本当の大物になるかもしれんと空手ねずみ・チウを再評価していた。
獣王遊撃隊のメンバー、ドラキー・パピラス・さそりバチにそれぞれ掴まって飛び立つチウ、クロコダイル、ビーストくんを見上げるエイミは、落胆しつつもメルルの治療に当たり、そしてヒュンケルの無事を願った。だが…

「……いきなり いいのを もらっちまったな…ヒュンケル…!」恐るべき速さと破壊力を持つヒムの拳を、ヒュンケルはモロにボディに食らっていた 「これが…闘気ってやつか…!なんとも 素敵な能力だぜ…!! オレのこの吹きあげる怒りが…そのまま力になるかようだっ…!!!」突き上げられ床石に叩きつけられたヒュンケルは、この一発で決まりってこたぁねぇんだろ、次はどうすると問われても動けない。 終わりか…さすがのおまえさんでも…
吹き上がらんばかりのヒムの闘気を前に自ら無理だと諦めかけたヒュンケルの全身から感覚が失せていく。 ……マァム…!!…ダイ…ポップ… 仲間たちの顔が消えた闇の奥から懐かしい声が呼びかけてきた。手を差し伸べる師アバンの姿が脳裏に浮かぶ。
「……さぁ!とっとと立っちゃって下さいヒュンケル…!!まだ あなたは私の言った事を守ってないでしょ?」光と共に思い出したのは、子供だったヒュンケルにアバンが語った言葉「…そうです!力のすべてを出しきっての敗北ならば なんら恥じる事はない でも 今のあなたはまだ やれる事が残っているじゃあないですか…! …負ける時は力のすべてを出しつくして思いっきり負けなさい そうしないと絶対に 今より強い自分にはなれませんよ!! 最後の最後まで己の力を出しつくして戦いぬく…! それが…真の戦士です!!!」
ハッと目を見開いたヒュンケルが四肢に力を込め立ち上がる。「そうよ! それでこそおれが選んだ永遠の好敵手(ライバル)…!!!」ヒムの言葉を耳にしつつヒュンケルの心は師アバンに向けられていた。 …不思議なものだ あれほど憎んだのに…殺してやりたいとすら思ったのに…! …師よ!! 瀕死のオレをこうして立ち上がらせてくれたのは いつもあなただった…!!!


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